2018年3月3日土曜日

『歌声にのった少年』

ガザ地区は、
中東紛争の象徴的場所の一つであり、
ガザ侵攻からはまだ4年も経っていません。
で、
そのガザ地区を舞台にした映画、

『歌声にのった少年』(2015)

を見てみました。
(英語題は The Idol
フランス語題は Le chanteur de Gaza
パレスチナの、
そしてアラブ世界のスター歌手であるムハンマド・アッサーフ。
その実人生に基づき、
彼がスターになるまでの過程を追う物語です。

https://www.youtube.com/watch?v=4xA9Q6Ved0w


結論から言うなら、

いい映画だと思いました。
エンターテイメント性を保ちながら、
撮るべきものは撮っている、という印象です。

映画は2部に分かれています。
第1部は、2003年。
小学生のムハンマドが、
「男まさり」で優しい姉、
そして友達二人とバンドを結成し、
音楽活動を試みます。が、
やがて姉は病に倒れます。
第2部は、2012年。
タクシー運転手をして、
大学に行くための資金を貯めているムハンマド。
でも彼は、「歌って世界を変える」という子供時代からの目標を、
完全に捨て去ることはできません。
そんな時、
姉と同じ病気を抱えた幼馴染の言葉に励まされ、
一大決心をします。
「アラブ・アイドル」というテレビ番組に出て、
本格的に歌手を目指すのです。
とはいえ、
それは言うほど簡単ではありません。
まずはヴィザを取り、
カイロの会場に向かわねばならないのですが、
ヴィザは手に入りません。
追い詰められ、
偽造ヴィザを手にするのですが、
出てゆくときにこれが見つかれば刑務所、
帰るときに見つかれば、
もうガザヘは戻れないかもしれません。
でも、彼は出発します……

物語のところどころで、
破壊された街並みが映し出されます。
説明はありませんが、地雷でやられたのでしょう、
片足を失い松葉づえで歩く男がいます。
両足を失くしている人も。
監督は、
何千人も死んだ瓦礫の場所でカメラを回したりもしたので、
罪悪感を抱くこともありました」
と語っています。
(そう言えば最近、
『うしろめたさの人類学』という本が出ましたね。)


そしてそう言っている監督は、
これも撮っています。


第1部では、トンネルのエピソードが出てきます。
ガザ地区とエジプトを結び、
さまざまな物資を運ぶとされるトンネルです。
その数は、1000とも言われます。
映画の中では、
「ワ」クドナルドをエジプトで買い、
温かいうちにガザに持ち帰って届ければ、
たくさんチップがもらえる、
と子供たちが話しています。
もちろん背景には、
ガザ地区での物資の窮乏があるわけですが、
一方でこのトンネルは、
アラブ世界の「絆」でもあるのでしょう。
こんなニュースもあります。
これは「ワ」ックではなく、KFCです。



そして、現実のムハンマドの歌。


それから、細かいことを2つ。
ムハンマドに偽造ヴィザを用意してくれる元故買屋は、
『シリアの花嫁』でヒロインの弟を演じた、
アシュラフ・バルフムが演じています。
今回は口ひげを蓄えているので、
トレードマーク(?)の「すきっ歯」が見えにくいです。

また、「アラブ・アイドル」の予選の審査員は、
『キャラメル』の監督・主演である、
ナディン・ラバーキが演じていました。

*ガザ地区と言えば、この映画もありました。
そもそも、これを見たので、
今回の映画も見たのでした。

http://tomo-524.blogspot.jp/2017/09/degrade.html